愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた
 エリシアの手を微かに握り返したロジェリオは、安心したような笑みを浮かべた。だが次の瞬間、その手はだらんと力を失った。
 見開いたままの瞳に光はなく、さっきまであんなに苦しげな呼吸を繰り返していたはずの胸も、全く上下しない。
「うそ……嘘よ、ロジェリオ……! ねぇ、私はここにいるわ。リオ、返事をして……!」
 何度も彼の手を握って呼びかけるが、彼の身体は力なく揺れるだけだ。さっきまであたたかかった手も、冷たくなっているように思う。
「嘘……、いや、いやあぁぁぁっ!」
 動かなくなったロジェリオの身体を抱きしめて、エリシアは絶叫した。激しい雨音が、エリシアの泣きじゃくる声すらも覆い隠していく。
 どれほど泣き叫んでいたのだろう。薄暗い四阿には、誰も来ない。助けを呼ぶ声も、エリシアの悲鳴も、全て雨音がかき消してしまった。
「……ロジェリオ」
 何度名前を呼んでも、彼はもうエリシアの手を握り返してくれない。ぽたぽたと流れ落ちる涙が頬に落ちても、ロジェリオはなんの反応も見せない。
「毒……なの?」
 泣きすぎて掠れた声で、エリシアはつぶやく。ロジェリオが病気を抱えていたという話は聞いたことがないし、こんなふうに急に倒れるなんて考えられない。
 さっき違和感を覚えたティーカップの位置。もしかしたら、カップに毒が塗られていたのだろうか。
 だが、誰がそんなことをするだろう。ロジェリオは優しく穏やかな人柄で、誰かに憎まれるような人ではない。
 その時、四阿に誰かが近づいてくるのが見えた。真っ黒な雨傘を持ったその人物は、どうやら男性のようだ。
 涙を拭うことなくぼんやりと顔を上げたエリシアの目の前で、四阿に入ってきた男がゆっくりと傘を畳む。
 それは、エリシアのよく知る人物だった。
 男はエリシアを見下ろすと、晴れやかな笑みを浮かべる。
「あぁ、やっとそいつが死んだ。よかったね、エリシア。これで自由になれる」
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