愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた
 絶対に公爵令息を逃がすな! と鼻息を荒くした父が、今夜のためにドレスを新調してくれたのだ。流行りのドレスショップの新作は随分と高価だったろうに、エリシアが玉の輿に乗れるならそんな投資も微々たるものだと考えているようだ。当のエリシアは、ロジェリオと婚約する気なんてないのだけど。
 エリシアの説明に、ヴィクトルはなるほどとうなずき、じっとドレスを見つめた。
「ふぅん、見たことがないなと思ったら、そういうことか。うん、姉さんによく似合っていると思うよ」
 淡々とした口調ながら褒められて、エリシアは若干の違和感を抱く。弟は、エリシアのドレスを褒めるような子だっただろうか。
 考えれば考えるほど、分からなくなってくる。
 小さく礼を言って、エリシアはロジェリオの待つ玄関ホールへと向かう。
 足音に気づいたのか、ふと顔を上げたロジェリオは、エリシアの姿を認めた途端にぱあっと顔を輝かせた。
 会えて嬉しいと言わんばかりのその表情に、胸がぎゅっと締めつけられる。
 それに彼が着ているグレーのジャケットには見覚えがある。恋人同士として参加した前世でも、彼は同じものを身に纏っていた。襟元の飾りには空色の石が使われていて、それは恐らくエリシアの瞳の色を意識したものなのだろう。あえて彼の色を排除した装いをしている自分が、少しだけ申し訳なくなる。
 だけど、ここで絆されてはならない。エリシアは今夜、ロジェリオに嫌われる覚悟なのだ。
 エリシアは、仕方なく参加してやるのだという表情に見えるよう、わざと不機嫌な顔をしてみせる。
「やぁ、エリシア嬢」
「……こんばんは」
「こんなにも美しいきみをエスコートすることができて、とても幸せだよ。いい夜にしよう」
< 59 / 152 >

この作品をシェア

pagetop