愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた
 不機嫌そうな弟の考えが分からなくて、エリシアは黙って彼の消えたドアを見つめる。エリシアの婚約を怒っているのだろうか。姉弟として過ごしているはずなのに、実は愛し合っていると、そう思っているのだろうか。
 ヴィクトルがエリシアを見つめる視線に、特別な感情が込められていると感じたことはない。だけどそれは、エリシアが気づいていないだけなのかもしれない。
 考え込むエリシアの前に、ことりとティーカップが置かれた。顔を上げれば、そこには穏やかな笑みを浮かべた執事の姿があった。
「眉間に皺が寄っていますよ、お嬢様。お疲れなのでは? 気分がほぐれるよう、カモミールティーにいたしました」
「……ありがとう。でも、さっき朝食でたくさんお茶を飲んだから、今は必要ないわ。もう、部屋に戻るわね」
 ザカリアスは執事として純粋な好意でお茶を淹れてくれたのかもしれない。だけど『エリシアのためだけに淹れた紅茶』を飲む気にはなれなかった。
 ロジェリオと婚約して以降、エリシアは自身が口にするものにも神経を尖らせていた。エリシアが毒を盛られる可能性は低いと思うけれど、何が起きるかは分からない。
 なるべく接触する時間も減らしたくて、エリシアは足早に自室へと戻った。
 部屋のドアをしっかりと閉めて、エリシアはため息をつく。再びロジェリオと想いが通じ合ったことは、本当に幸せだと思っている。彼の愛を疑ったことはないし、一緒に過ごす時間はとても楽しい。
 だけど、その幸せがいつか崩れてしまうかもしれないと思うと、恐ろしくてたまらないのだ。
 弟と執事、どちらがロジェリオを殺したのかは、まだ思い出せないままだ。必然的に二人を避けることになって、エリシアの心は疲弊している。
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