愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた
◇
心の落ち着かない日々を過ごすうち、ロジェリオと婚約を交わして数か月が経っていた。
二人は今も、軽いキスを交わす程度の触れ合いしかしていない。エリシアがそれ以上の関係になることを、拒んでいるからだ。
ロジェリオが殺された時、あの男はエリシアが純潔でないことを怒っていた。ロジェリオに抱かれたことがあの惨劇のきっかけのひとつだったなら、せめて結婚して家を出るまでは一線を越えてはならないと思うのだ。
もちろんロジェリオにもそれは伝えてあるし、彼も理解してくれている。今世では経験がないとはいえ、キス以上の甘い触れ合いを知っているエリシアは、ロジェリオに抱きしめられるたび、身体が切なく疼くのを感じているけれど。
ある日の夕食の席で、ふと父親が何かを思い出したような声をあげた。
「そういえば王立劇場で、秋の新作劇の公開が決まったそうだ」
「まぁ、どんなお話かしら」
観劇を好む母が、興味を引かれた様子で身を乗り出す。父親は、劇のタイトルを思い出すように顎に手を当てた。
「えぇと、なんだったかな……。あぁそうだ、人魚をモチーフにした悲恋の物語だ」
「人魚姫ね! 素敵だわ。ぜひ観に行きたいわね」
食事をしながら聞くともなしに会話を聞いていたエリシアは、思わず手を止めた。母親が口にしたタイトルには、聞き覚えがある。それは、ロジェリオが殺された日に両親が観に行っていた演目だったはずだ。
「チケットの手配を、いたしましょうか?」
執事のザカリアスがそう言うのを聞いた瞬間、エリシアは思わず口を開いた。
「っ、だめ!」
「だめだ!」
何故か同時に弟のヴィクトルも声をあげ、お互いの目が合う。ヴィクトルは、驚いたように目を見開いていた。
両親は苦笑して、エリシアとヴィクトルを交互に見る。
「どうしたの、二人とも。声を揃えて」
「えっと……あの、主演の方がすごく人気で、なかなかチケットが取れないと聞いたわ」
「うん、前売りも完売だって。だから観に行くのは難しいんじゃないかな」
ごまかすように言葉を重ねるエリシアに、ヴィクトルも同調する。
「そうねぇ。この前のチケットも、人気で取れなかったものね」
母親がため息をつき、食卓での会話は別の話題へと流れていく。
黙って食事を続けながら、エリシアはヴィクトルが何度もちらちらと視線を送ってくるのを感じていた。