たとえ世界から「ごめん」が消えたって、
*
「さっきはごめん」
謝れば済むと思っている僕は今日もまた、
口先だけの「ごめん」を言う。
僕の腕枕の中にいる彼女は、困ったように眉を下げて、
「ごめん?」
と、怪訝な顔で首を傾げる。
いつもと違う反応に、僕は少し、焦る。
「えっと、その……痛がってたのに、気づかなくて本当ごめん」
「……うん、確かに痛かった、けど……」
いつもみたいにふわりと綻ばない、引きつった頬。
おかしいな。
どうして今日は、あのへたくそな笑みを張りつけないのだろう。
「って、ごめんで済む問題でもないよな。でも本当、悪かったよ。ごめん、許して」
ごめん、ごめん、と繰り返す。
いつも以上に、心底反省しています、という声色を塗り重ねて。
本当は、ごめんだなんて、1ミリも思えないのに。
むしろもっと苦しめばいい。
その憎たらしいくらい綺麗な顔を、苦しみの混じった不細工な笑みで歪めてしまえ。
と、平気でそう思えてくる僕はただのクズでしかない。
口先だけの謝罪を連呼していると、瞬くん、という力強い声がそれを遮った。
「瞬くん…」
もう一度、確かめるように僕の名を呼ぶ。
彼女はじっと見つめていた。
「うん、ごめんね、蘭」
だから僕も、見つめ返した。
しばらくそうして、沈黙の中、彼女のふっくらした唇が、ゆっくり、開かれる。
「……“ごめん”って、なあに?」