たとえ世界から「ごめん」が消えたって、
この日は1限から講義があるから、朝の通勤通学ラッシュの波に乗っていた。
ドンッ。
「わっ」
駅のホームで男子高校生と肩がぶつかって、カラン、とスマホが落ちる。
僕のものではなくて安心しながら足元のそれを拾い上げ、差し出す。
「ごめんなさい、どうぞ」
言いながら、しまった、と思った。
「……あ、ども」
男子高校生は不思議そうに僕を一見し、受け取ったスマホを紺色ブレザーの胸ポケットへ押し込みながら去っていった。
去りぎわ、変なやつ、って顔してた。
それもそうだ。
突然意味わからない単語を発して落とし物を拾われる本人の気持ちを想像する。
「くくっ、変なやつ」
小さくつぶやいた声は僕以外の誰の耳にも入ることなく、廃れたコンクリートへ落ちた。