魔力ゼロの悪役令嬢が 最強の魔女になれたのは、優しい魔王さまの嫁だから

12話

12話 炎



晩秋の穏やかな夜、オルデウス家の屋敷は、四方から火の手が上がった。


荘厳(そうごん)で歴史のある建造物、(ぜい)を凝らした家具、調度品、それらは、瞬く間に炎に包まれた。


カリナが唯一の憩いにしていた、大好きな庭も東屋も火の手がまわる。


こんな時は、いい事も悪い事も頭に浮かんでくる。


悲しい思い出。辛い思い出。少しだけある、使用人との、楽しい思い出。


カリナと魔王はその光景を眺めている。


『綺麗…あんなにわたしを悩ませた全てが、灰になり消えてゆく。』


カリナの心に複雑な気持ちが渦巻く。


不意に、父と兄、クナガン・オルデウスとシャロン・オルデウスが現れ、カリナたちを見とがめる。


「カリナお前なのか、こんな事をしたのは!」

 
兄、シャロンが引き継いで、尋ねる。


「地下に魔王もいない…!どう言う事なんだ!これはお前の仕業なのか…カリナ!」


カリナ・オルデウスは静かに、表情もなく答える。


「お父様に認められても、もう嬉しくなくなったんです。」


父、クナガン・オルデウスはカリナを責める。


「なぜ、屋敷に火をつけた!お前は従順ないい子だったじゃないか!」


カリナは答える。


「従順だった。どんなに踏みにじられても。でも結局、わたしは家族の温かみを知ることはなかった。」


そう言う言葉がだんだんと怒気(どき)をはらむ。


「最後は、命までも奪われて」


そう言うと、クナガンとシャロンは、自らの首を手で掻きむしって、苦しみはじみた。


カリナは無意識に力を使い、彼らを殺そうとしていた。


父はもがきながらカリナに語りかける。


「カリナ…誤解だ。お前は父親である、私を冷たく感じたんだろう。

しかし、実際にはそうじゃないんだ。
厳しく躾けなければ魔力のないお前は、生き残るのが難しい、そう考えてのことだったのだ。」


カリナは父の言葉に震え出し、強い怒りの感情がわきあがる。


「わたしだけ、兄や妹たち、他の兄弟たちと違って、お誕生日会やプレゼントが…一度も無かった。

いえ、おめでとうと言う言葉さえ、もらえなかった。…それは何故ですか?」


カリナの言葉に魔力がこもる。


「わたしは、それらが、わたしにだけ無いのを指摘することさえも、許してもらえなかった。」


カリナはそう言うと、怒りが噴き出し、抑えられない。


「家族の団欒(だんらん)にまぜてもらえず、自室でひたすら、魔術書を読み続けるしかなかったことも、

死んだお母様のブローチが無くなった時に、真っ先にわたしを疑い、きびしく罰したことも。

魔力ゼロなのは、わかりきっているのに、魔法が使えるまで、帰ってくるなと、寒空のもと夜着と裸足で一日中外に閉め出されていたことも。

冷たくされて、それでも顔色を伺いながら暮らした日々も、何もかもが、誤解だと言うのですか?」


カリナの手が震えているのを、魔王は見逃さなかった。


魔王がカリナの肩を軽く触れると、彼女は、はっと我に帰った。


そのおかげで、クナガンとシャロンの首にかかった魔力が(ゆる)み、彼らはなんとか窒息死から免れた。


「ごめんなさい、魔王様こんなところ見せるはずじゃなかった。」


こんな醜い醜態(しゅうたい)を晒す必要ないのに、


感情なんて、人間の摂理に(とら)われたこと、捨てたはずなのに。


そんな事に囚われたくなくて、魔女になったのに。


魔王は口を開く。


「いや謝るのは我だ、お前の個人的な復讐を邪魔するべきではなかった。

ただ迷いがあるなら、殺すべきではないだろうと思っただけだ。」


魔女になった、わたしの復讐に迷いなんて…


ではと、魔王は問いかける。


「ではなぜ泣いている?」


『あれ…なんで泣いているんだろう。

もう泣かないって決めたのに。』


ごうごうと猛烈に燃える、屋敷を背に、カリナは家族に最後の挨拶をする。


「お父様、もう魔王も屋敷も、この家にはなくなりました。これで、オルデウス家の権威(けんい)はおしまいでしょう。」


「さよなら、お父様、お兄様、ご機嫌よう。」


カリナはそう言って燃えさかる、屋敷を前に、ぼう然とたたずむ家族に、永遠の別れを告げた。

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