政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
ところが、すみれにだけは同じようにできない。その場凌ぎの社交辞令や適当な言葉は吐けず、彼女が笑うたびに鼓動が高鳴る。


だから、すみれには極力自分のことは語らず、常に表情を緩めない努力をしていた。けれど、彼女のことを大事にしているつもりではあった。


できる限り時間を作って、会いに行く。回数も時間も少なかったが、すみれの好みをリサーチして店を選んだ。


そうして順調に事が運び、無事に結婚できたときにはひとまず安堵して……。ひどいことをしていると思いながらも、喜びに包まれていたのだ。


結婚生活では、すみれの負担が大きくならないように細心の注意を払った。家事は外注し、彼女には公私で望む生活を与えられるように努める。


仕事を続けたいと言われたときは意外だと思ったが、それも受け入れた。慧の気持ちを余所に、すみれが誤解をしているとも知らずに……。


結婚後もキスひとつできなかったのは、彼女を傷つけたくなかったからである。


慧とは違い、すみれには恋心などない。虚しく悲しい現実は嫌というほどにわかっていたからこそ、彼女の気持ちを大切にしたかった。


すみれの心が追いつき、覚悟が決まるまで、彼女を抱かない。
なにがあっても、そうするつもりでいたのだ――。

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