政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
『今日は会社に泊まり込んで、明日と明後日は出張だからそのまま行くことになる。今は荷物を取りに帰ってきただけで、もうすぐ出るところだ』


けれど、慧に悟られないようにキュッと口角を上げた。


「わかりました。じゃあ、また慧さんが早く帰れる日にご飯を作って待ってます。出張、気をつけて行ってきてください。でも、無理はしないでくださいね」


こんなことしか言えないが、精一杯明るい声で紡ぐ。


『ああ。すみれもひとりのときは気をつけて。なにかあったら連絡して』
「はい。ありがとうございます」
『じゃあ、また』


そう言うが否や、電話が切れてしまう。きっと、彼はわずかな空き時間で電話をかけてきたのだろう。


わざわざ電話でお礼を伝えてくれたこと、ザッハトルテを食べてくれたこと。どちらもとても嬉しく、すみれの心をふわふわとさせる。


一方で、入れ違いで顔を見られなかったことが悲しい。慧と数日会えないことも寂しく、がっかりしてしまった。


喜びと負の感情が交互に押し寄せ、すみれの心でグルグルと渦巻く。


(でも、前の慧さんならきっと電話なんてくれなかったよね。だったら、いちいち落ち込んでいないで、慧さんに好きになってもらえるように頑張ろう)


夫婦としての距離感は、相変わらずまだわからない。それでも、すみれは彼からの電話で前向きになれ、そんな風に思った。

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