政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
幼い頃から、父の言う通りに生きてきた。母は厳しくはなかったが、父の言う事を聞くのが当然といった態度だった。


大人になるまでは、それをあまり疑問に思ったことはない。疑問に思う余地もない環境にいたからだ。


六条商事の経営が危ういと知ってからは、それこそ他の道など考えられなかった。
だって、すみれが自由を求めれば、会社は助からない。そうなると、必然的に社員たちも……。


すみれが結婚したからと言って、会社が持ち直すとは限らない。それでも、すみれには選択肢はなかった。


そんな風に生きてきたからこそ、慧の言葉は目から鱗だったのだ。


「やりたいこと……今まであまり考えてこなかったかもしれません」
「そうだろうな。申し訳ないが、お義父さんは会社のことばかり考えてるし、娘のことさえ会社の駒だと思ってる節があると思う」
「そうですね……」


耳にも心にも痛いが、共感できる。すみれが眉を下げて頷くと、彼が申し訳なさそうにした。


「ごめん」
「いいえ。本当のことですから」
「でも、お義父さんがそういう考えだったおかげで、俺はすみれの婚約者候補になれたんだけどな。……なんて、都合がいいか」


すみれがふふっと笑う。慧らしくない冗談めかした言い方に、心が軽くなった。


「なにかしたいことはある?」
「うーん……すぐには思い浮かばないかもしれないです」
「じゃあ、これからゆっくり考えていこう。俺も一緒に考えるよ」


彼の優しさが嬉しい。愛されていると心から実感でき、幸せを噛みしめた。


「私がなにをしたいって言ってもいいんですか?」
「……俺から離れなければ、なにをしてもいいよ」
「じゃあ、たとえばひとりで海外旅行は?」
「……俺が一緒に行くのが嫌なら、ボディガードをつける」


それは、果たしてひとりと言えるのだろうか。そう感じたが、慧があまりにも真剣に言うのがおかしくて小さく噴き出してしまった。


彼の惜しみない愛情が、すみれの心を癒やしていく。すみれは、とめどなく溢れる想いと感謝を込めて愛する夫に甘えるように抱きついた。

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