政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「エンゲージリングなら、もう……」
「あれは形だけだったから。あのときも俺はすみれが好きだったけど、今度はちゃんと愛を伝えるために用意したんだ」


すみれが涙をボロボロと零し、困ったように微笑む。


「甘やかしすぎですよ……」
「いいんだ。俺は、これからずっとすみれを甘やかすって決めてるんだよ」


慧が彼女の手を取り、左手の薬指に指輪をはめる。結婚指輪と重ねづけすると、新たな婚約指輪のダイヤモンドが目立っていた。


華奢なすみれの指には、少し重いだろうか。これでも自重したが、彼女が困らないかと今さら心配になった。


「ありがとうございます。最初にもらったものもこの指輪も、ずっと大事にしますね。たとえ形だけでも、私にとってはどちらも大切なものだから」


すみれの言葉に、慧は胸が詰まる。こんなにも純粋で優しい彼女を傷つけた後悔は消えないが、だからこそ今以上に大切にしようと誓った。


「年が明けたら、新婚旅行に行こう。いっそのこと、ヨーロッパもリゾートも行けばいいから」
「あっ、そのことなんですけど……しばらく無理そうなんです」
「えっ?」


慧が不思議に思っていると、すみれが眉を下げてバッグを開ける。そこから、小さなノートのようなものを取り出した。


「お腹に赤ちゃんがいるんです。だから、新婚旅行は――」


見せられたのは、母子手帳だった。慧はそれを目にした瞬間、ほぼ衝動的にすみれを抱きしめていた。


「妊娠、したんだな」


噛みしめるように言った慧に、すみれが「はい」と答える。


「昨日わかったばかりで……。今日、母子手帳をもらってきました」


喜びに満ちた様子で話す彼女に、慧は感動で視界が滲みそうになった。


「そうか……」


嬉しいのに上手く言葉が出てこなくて、そんなことしか言えない。すると、すみれが感極まる慧の背中に手を回した。


「きっと、賑やかになると思います。今とは比べ物にならないくらい慌ただしくて、もっと幸せな日々になりますよ」
「ああ、そうだな」


今まで感じたことがないほどの幸福感を、まだ上手く受け止められない。けれど、確かな幸せがここにある。


慧が彼女から離れると、ふたり惹かれ合うように唇を重ねた――。

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