政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
もともと、会社のことに関してはすみれはなにも聞かされていない。
六条商事が経営難なのはわかっているけれど……。内情や詳しい数字を知っているわけではなく、父からもなにも知らされていないのだ。


会社の内情を話したところで無駄だと、慧にも父にも思われているのだろう。


「わかりました。余計なことを訊いてしまってすみませんでした」


すみれが頭を下げると、彼が一拍置いて神妙な表情で口を開いた。


「俺は、すみれさんと結婚したいと思ってるから」


それは、慧の中ですみれとの婚約を進める意思があるという意味だ。


「だから、今ここでひとつだけ約束しておく。すみれさんにとっていい夫になるよ」


しかも、続けてそうも言われ、すみれは思わず目を見開いてしまった。


訊きたいことも、言いたいことも、まだ残っている。けれど、戸惑いと驚きが大きくて、今は言葉にできそうにない。


「さあ、早くマンションの中へ」


彼はもう話す気がないようで、すみれの肩を優しく叩いてきた。


「……はい。今夜はお祝いしてくださって、本当にありがとうございました。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」


軽く頭を下げたすみれは、慧に見守られながらエントランスに入っていく。自動ドアが閉まる直前に振り返ると、彼はまだすみれを見ていた。
真っ直ぐな双眸と視線がぶつかって、鼓動が大きく高鳴る。


(私にとっていい夫、か……)


けれど、その言葉を素直に喜べないすみれの胸中は、ただただ複雑だった。

< 38 / 204 >

この作品をシェア

pagetop