政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「だったら、今まで通りでいい」
「今まで通り……ですか?」
「ああ。俺は基本的に外で食事を摂るから、すみれは自分の分だけ準備すればいい。面倒なら買ってもデリバリーでもいいし、外注してもいい。すでに家事代行サービスには頼んであるから、すみれが家事について気にする必要はない」


拒絶に近い言葉に聞こえる。
気のせいかもしれないし、気にしすぎかもしれないけれど……。慧から感じたのは、思いやりではなく大きな壁だった。


ただ、これが彼の望みなら、すみれはもう食い下がれない。


「じゃあ、お休みの日とかは……」
「……いい。すみれも休みの日くらいゆっくりしたいだろ」


休みの日くらい作ります……と言いかけたが、きっと拒絶されるだろう。そう感じてしまい、どうしても言えなかった。


「わかりました」


慧は、これ以上この件について言及しなかった。すみれも空気を読んで口を閉じる。
途端に車内は重い空気になった気がしたが、気のせいだと思いたかった。


結局、ランチかディナーかわからない食事は、帰路にある店で済ませた。いつもの高級店ほどではないが、それなりに格式の高いフレンチレストランだ。


料理はおいしいはずなのに、さきほど彼に拒絶されたことが悲しくて……。すみれは味がよくわからず、もはや新婚とは思えない。


帰宅後はすみれがバスルームに入り、慧はシャワールームを使った。すみれがリビングに行くと、彼はソファにいた。


「今日はお疲れ。じゃあ、おやすみ」
「えっ? あっ、はい……! おやすみなさい……」


覚悟を決めていたすみれに反し、慧はすぐさまリビングから出ていく。


確かに、互いに自室を作った。これは彼の提案で、政略結婚ならそういうものだろう……と納得もしている。
それでも、まさか初夜を迎えないとは思ってもみなかった。


ひとりリビングに残されたすみれは、あまりの衝撃にしばらく動けなかった。
そうして、特に進展もないまま今に至る――というわけだ。
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