政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
「今日の会食でもらった。焼き菓子だそうだ。食べ切れなければ、会社に持って行くといい」
「慧さんは召し上がられないんですか?」
「甘い物が嫌いなわけじゃないが、あえて食べようとも思わない。もらう機会も多いし、キリがないからな」
「じゃあ、お言葉に甘えていただきます」


すみれが紙袋を受け取り、中身を確認する。クッキーやマドレーヌなど、数種類の焼き菓子が入っていた。


期限までにひとりで食べ切れそうにないが、来週には美弥が遊びに来る。彼女に持って帰ってもらえばいいだろう。


パントリーに片付けると、慧はリビングで水を飲んでいた。


(どうしよう……。言ってみてもいいかな……)


彼をちらちらを見ながら、数日前から考えていたことを切り出そうかと考える。


「どうかしたか?」


タイミングを見計らっていると、慧がすみれの様子に気づいたらしい。彼は、わずかに怪訝さを浮かべながらすみれを見た。


「えっと……もしよければ、なんですけど……」


断られるのは想定済みだ。それでも、少しでも慧との距離を縮めたい思いで勇気を振り絞る。


「やっぱり、早く帰れる日があれば一緒に晩ご飯を食べませんか? 一応は夫婦ですし、そういう時間も必要かなって思うんです」


鼓動がうるさく感じるが、あくまで冷静に努める。彼は一瞬だけ瞠目したあと、少し悩むようにすみれを見つめていた。


その時間は、たぶん十秒ほど。けれど、すみれにはとても長く感じた。


「来週の火曜は会食もないし、たぶん今日くらいの時間に帰れる」


返事は、はっきりとした『YES』ではなかったけれど……。すみれは断られていないことにすぐに気づき、パッと笑顔になった。


「はい! じゃあ、準備して待ってますね」
「……ああ」


小さく頷いた慧が、リビングから出ていく。素っ気ない態度に見えたが、彼に断られなかったことに飛び跳ねたくなった。


なにを作ろうか、どんなものなら喜んでもらえるだろうか。そんなことを考えるだけで、ウキウキしてしまう。
小さな約束だったが、すみれにとっては大きな一歩に思えた。

< 65 / 204 >

この作品をシェア

pagetop