政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
取締役副社長である慧の業務は、多岐に渡る。いわゆる社長補佐のような立ち位置だが、経営戦略、他社との交渉、事業展開……と関わっているものは多い。


現在は、特に事業展開に力を注いでいる。土地の再開発が進んでいる新宿区に、三年ほどかけて大型商業施設を建設予定なのだ。


再開発に向け、まずは土地を手に入れるために随分と骨が折れた。多くのビルや店を購入する中、立ち退きを拒む人間も多数いたからである。


これ自体は珍しくはないが、説明会を何度開いたことか。個人への説明の機会も果てがないほどに続いた。


ようやく土地の整備が進み、昨夏から施工に入ったところである。まだ先は長く、今後も様々な問題は起こりうるだろうが、今のところ順調と言える。


仕事は問題なく、トラブルが起こっても解決する自信はある。秘書の誠二を始め、優秀な部下たちが慧の力になってくれるのも大きい。


そんな慧にとって、目下の悩みはプライベートである。
どんよりとした曇り空が広がった景色を前に、慧は眉をひそめてしまう。昨夜の一件が脳裏から離れないせいで、つい深いため息が漏れた。


「らしくないな」


すると、誠二が皮肉げな笑みを浮かべた。


「ため息なんて滅多につかないお前が、今日はずっと浮かない顔してるぞ。やっぱり結婚生活が息苦しいんじゃないか?」


彼は、慧が結婚したことを後悔していると思っているのだろう。


「そんなことはない」


残念ながら見当違いだが、なにを言ったところで誠二は納得しないに違いない。内心ではそう考えつつも、ひとまず否定した。


「強がるなよ。仕事以外に対して興味がないお前が、他人と住むなんて……ましてや結婚なんて面倒に決まってる。しかも、相手はあの箱入り娘なんだ。ご機嫌取りはしておかないといけないし、気苦労も絶えないだろ」


慧は口を開きかけ、ため息を返す。それを肯定だと受け取ったのか、彼がケラケラと笑った。


「用が済んだなら戻れ」
「はいはい」


気安い口調の誠二が、副社長室から出ていく。慧はその背中を見送ったあと、椅子に深く腰掛けて天を仰いだ。


(失敗した……。あんな風に抱くつもりじゃなかったのに……)


昨夜、慧はすみれを抱いた。まさかこんなにも大きな罪悪感を抱くとも思わず、怒りと焦りに任せて――。

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