愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 けれどたくさんの使用人が見ている前で恥をかかせるわけにもいかず、夜会で見かけたラウス様狙いのご令嬢たちに心の中でこっそりと詫びてから手を乗せた。

 普段ならヒールが苦手だと知っている使用人やお父様の手に遠慮なく体重をかけてしまっていた。けれど今日はそんな不躾なことできるはずもなく、むしろ手を中途半端に乗せているぶんバランスが取りにくく、グラつく足に全神経を向けた。

「モリア? 大丈夫か?」

 わずか三段ほどしかない段差を降り、地面に足がつくと一気に落ち着く。額にはうっすらと汗がにじんでいた。

 そんな私の顔を心配そうにラウス様は覗き込む。
 極度の緊張状態にあった私の顔はきっと心配に値するものだったのだろう。

「ええ、ご心配をおかけして申し訳ありません」
「そうか? 無理はしないでくれ」
「ええ、大丈夫です」
「そうか……」

 理由は明らかではあるが、そんな情けないことをこれからの雇い主に言えるわけもない。微笑んで心配ないことを表すとラウス様は屋敷の方へと顔を向けた。

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