愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 本物ではなかった私の刺繍したハンカチなんて要らないと言われるかもしれない。だが私に笑いかけてくれたあの人達との約束を自ら違えてしまおうとは思えないのだ。

 手先には自信がある。
 残りの4枚はいつも通りのペースならば昼過ぎには出来上がることだろう。

 ベッドに腰をかけ、そして一心不乱に布に針を突き刺して行く。何回も作り出してきた薔薇の花は色を変えていくつも浮かび上がってくる。

 一枚、二枚と終わるごとに自分の手は動きを加速させて行く。

 そして4枚目が終わった頃の私の作業時間は恐らく自己最高記録を塗り替えていたことだろう。それでも手の中にある薔薇はいつも以上に綺麗に咲いてくれている。

 お姉様達の嫁入り道具に施した物よりも美しく、最高の状態で。
 それは後は散るだけの今の私とよく似ているような気がした。




 コンコンコンと、来るのは二度目となるアンジェリカの部屋のドアを軽くノックする。

「はい」

 少し間が空いてから返事とともにドアが開く。その間から顔を覗かせたのはこの部屋の主人であるアンジェリカ、ではなくシェードだった。

「モリア様!」

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