愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 その笑顔が崩れるのは私がこの屋敷を去った後のことだろう。
 彼女の愛らしい笑顔に罪悪感は積もっていく。

「……ありがとう」

 重さを持ったそれを抱きかかえながら、何も知らない彼女が発した感謝の言葉を受け取る。

 自分でもズルイことをしているのは分かっている。それでも口元を無理矢理釣り上げて笑顔を作る。

 残りの僅かな時間であっても私を慕ってくれた彼女の義姉でいたいと思いながら。

「お義姉様、どうかなさいましたか?」
「なんでもありませんよ」

 心配そうに見つめてくれるその姿に嘘を返して、そしてその嘘がメッキのように剥がれ落ちる前にその部屋を後にした。

 次はアンジェリカの向かいの部屋の五つ隣に位置するサキヌの部屋のドアをノックする。

 アンジェリカの部屋でそうしたようにコンコンコンと軽く三度。
 だが一向にサキヌの返事はやって来ない。コンコンコンと再び叩いてもまた返事はない。

 居ないのだろうか?
 そう思うものの、どうしてもお世話になったサキヌには自らの手で渡したいという気持ちが強いからか、もう一度だけとしつこく三度目のノックをしてしまう。

「誰?」

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