愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 すると神聖なるその場に闖入者がやってきたことに気づいたらしいお義母様はゆっくりと目を上げて、そして笑いかけた。

「モリアちゃん!」

 私という異物が混入したからなのか彫刻のような上品さを保っていたお義母様はすっかりといつもの姿へと変わっていった。

 アンジェリカやサキヌの変化と全く同じである。
 やはり数日で人となりを十分に知るには難しかったということだろう。だが残念なことに私にはもう知るだけの時間は残されていない。

「ハンカチの刺繍が終わりましたので、もしよろしければ……」

 やはり前の二人の時と同じように言葉を濁しながらハンカチを差し出すと、お義母様は快く受け取ってくれた。

「あら綺麗! モーチェフ様もきっと喜ばれるわ!」

 最後の二枚を渡してしまった私の手にはもう何も残っていない。

 そしてそれは同時にこの家ですべきことの終わりも告げていた。

「では失礼します」

 深くお辞儀してからその場を立ち去ろうとする私をお義母様は何も言わずに腕を掴んで制止した。

「どうか、されましたか?」
「お話しましょう?」
「え?」
「今日は二人でお茶しましょう」

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