おくれなば
「……あ、じゃあ梅ちゃん、でいいかな?私は桜でいいよ!」
よろしくね、と手を差し出して、得意の爽やかスマイルを貼り付けて、その場の雰囲気をワントーン上げる。
「ありがとうございます、桜さん。これからクラスメイトとしてよろしくお願いします」
そう言って丁寧にお辞儀をする梅ちゃん。
ほんと律儀だなーと言って笑う橘くん。
同じクラスだったんだ……というセリフは胸にしまう。
「それで、橘くん、園芸部のことでちょっと話がありまして」
そうだった、梅ちゃんは橘くんに用があったんだ。
お邪魔な私は席を譲ろうとしたけど、それより先に橘くんが席を立つ。
「まだ時間あるし庭行こう」
「そうですね」
「べにちゃんいつも朝早いよね」
「春は花が気になって早く起きてしまうんです」
二人はそんな会話を交わしながら教室を出ていった。
庭……この学校の庭って一体どこを指すのか、園芸部じゃない私にはわからなかった。
しかし、二人だけが知っているそこに、二人だけで行ってしまった。
その事実は教室に取り残された私をどうしてか焦らせた。