恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
「何か……いつもと違いますね」

「ああ」

 あまりにも不機嫌そうな返事に、それ以上機嫌を損ねないほうがいいと判断し、私はそっと口を噤んだ。私たちへ向けられる視線は、廊下ですれ違うたびに感じられ、その居心地の悪さは部屋へ入る直前まで続いている。

——ピピッ、ガチャ

「はぁ……」

 部屋へ入った途端、張り詰めていた緊張の糸が切れたように、私は無意識に大きく息を吐き出した。

「男の視線がウザい」

 要さんは心底うんざりしたように吐き捨てる。

「どうしたんでしょう? 要さんの魅力に気づいちゃったとか?」

「はぁ? な訳ないだろう」

 呆れたように即座に否定された。その反応を見る限り、要さんには理由がわかっているらしい。少し気にはなったものの、この様子では深く聞かないほうがいい。私はそう判断して、それ以上この話題に触れるのはやめることにした。

「シャワーを浴びてもいいですか? せっかくメイクしていただいたんですが、慣れなくて落ち着かないんです」

「ああ。今日は疲れただろう? 明日に備えて部屋でのんびりしよう。ルームサービスを頼んでおくよ」

「私がやります!」

 それこそ私の仕事ではないか。

 私は秘書として今回の出張に同行しているのだから、こういうことまで要さんに任せるわけにはいかない。少しでも役に立てることは、自分でやりたかった。

「気にするな。ほら」

 結局、私は追いやられるようにシャワーへ向かう。


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