恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 さすがと言うべきか。要さんは一瞬でこの場の空気を変えてしまった。

「すまない。俺が席を外したばかりに」

「そんな。私こそ、巻き込んでしまってすみません」

「それにしても、TOKITOシステムとは……」

 その名前を聞いただけで胸の奥がざわつく。グループ内でも改革が必要な子会社として、真っ先に名前が挙がる会社だ。今回の件も、これだけでは終わらないような気がしてならない。

 せっかくの美しい夜景も、雰囲気のいいオシャレなバーも、一気に色褪せて見えてしまう。

「そういえば電話……大丈夫でしたか?」

「ああ、ちょっと向こうでトラブルがあったようだ」

「えっ、大丈夫ですか?」

 思わず身を乗り出してしまう。

「ああ。大丈夫だと言いたいところだが……続きはまた日を改めるってことで、お開きにしていいか?」

 要さんは申し訳なさそうに眉を下げた。けれど、トラブルが起きているのなら、そちらを優先するのが当たり前のこと。

「もちろんです」

 私がそう答えると、要さんは小さく頷いた。

 その後、要さんがお会計を済ませ、私たちは店をあとにする。

 エントランスで待っていたタクシーに乗り込むと、急いでいるはずなのに、要さんは先に私をマンションまで送ってくれた。内ではお互いにあまり言葉を交わさなかったけれど、その気遣いがありがたい。

 そしてマンションの前でタクシーを降りる。

「ありがとうございました」

「ああ」

 短いやり取りを交わし、ドアが閉まった。私は走り去っていくタクシーをしばらく見送る。

 やがてその姿が見えなくなると、小さく息を吐き、自分の部屋へと戻った――

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