恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦

過去を一掃

 この日は朝からバタバタしていた。

 来客の予定がぎっしりと詰まっていて、応接室の準備と片づけを何度も繰り返している。

 その合間を縫って、お遣いに出ていたのだが——

「おい! みのりじゃないか?」

「えっ⁉」

 会社の前まで戻り、エントランスへ足を踏み入れようとしたその時だった。

 エントランスから、先日会ったばかりのあの男が出てくる。

 聞きたくもない不快な声で名前を呼ばれ、私は思わずビクッと肩を揺らした。

「こんなところで何をしてるんだ? お前が来るような場所じゃないだろ? まさか俺のストーカーか⁉」

「はい? そんな訳ありません!」

 即座に否定すると、男は面白くもなさそうに鼻を鳴らしている。

「ふーん。まあ、いいか。だったら、こんなに頻繁に会うなんて縁があるのかもな」

「……」

 勝手に自分に都合の良い解釈を始める男に、呆れて言葉も出てこない。

 相手にするだけ無駄だと思い、私はそのまま何も言わずに通り過ぎようとした。

「おい、無視するなよ」

 背後から苛立った声が飛んでくる。
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