恋をしない秘書と恋に落ちた御曹司の甘くて危険な攻防戦
 要さんが立ち去る姿を、総務部全体が息をのんで見守っている。誰も声を掛けられないほどの威圧感が、その背中から漂っていた。

「要様……もう行っちゃうの?」

 そう、空気の読めない麗美がぽつりと漏らした声が、私の耳にもはっきり届いている。きっと誰もが、これ以上要さんを怒らせないでくれと心の中で願っているはずだ。

「ちっ……」

「はぁ……」

 総務部のフロアを出た瞬間、要さんの舌打ちと私の吐き出したため息が重なった。お互いに顔を見合わせて、思わず笑いそうになる。

(はぁ……良かった。もう怒りは収まっているみたい)

「戻るぞ」

「は、はい!」

 突然の社内視察は、どうやらこれで終わりらしい。私はほっと胸をなで下ろしながら、その後ろを追い掛けた。

 それにしても、彼女は総務部で一日何をしているのだろう。

 デスクの上にはパソコンが一台、申し訳程度に開かれていただけで、それ以外に仕事をしている気配は見当たらなかった。

 彼女の言う『パパ』とやらは、一体何者なのだろうか。

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