カットNG、恋はOK ~髪フェチ美容師は失恋女子を放っておけない~

prologue




『もっとおとなしい子がよかった』

 三年間付き合った彼氏に振られた。誕生日もクリスマスも、旅行だって一緒に行った。それなのに最後に言われた言葉が『おとなしい子がよかった』って!?
 浅倉栞奈は泣いたり怒ったりしながら夜の街を歩いていた。涙を拭った視界はいまだぼやけている。今夜は彼の家に泊まる予定だったのに。このまま家に泣きながら帰るのも癪に障る。だからといって行き先もないのだが、ただただ歩いていないと泣き崩れそうで、栞奈は足を動かしつづけていた。
 彼が喜ぶだろうなとお手入れを頑張って長く伸ばした髪も、全部無意味だったのかと虚しくなる。
 ふいに零れ落ちそうになった涙を抑えるために顔をあげた瞬間、雑居ビルの看板が目に留まった。アンティーク調の鋏のイラストと、筆記体で記された店名。

「ディア、スター?」

 ビルの入り口前で足を止めると、二階へ続く階段の脇にも小さな看板が立てかけられていた。

 ――Dearstar。

 そのお店の名前は聞いたことがある。チェーン店の美容院だったはずだ。ただ、どのお店も隠れ家的な雰囲気で、土日は予約を取るのが一苦労だとか。
 平日夜八時。店内の灯りはまだついている。どうやら営業時間内のようだ。

「そうだ、髪、切ろう」

 気づいたときには、栞奈は階段を上っていた。
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