俺様鉄面皮上司が偽装彼氏になりまして。
「……おまえ、あいっかわらず帰りおせえのな」
 出たよ。出た出た。
 二十三時ともなると、……女の子がひとりで歩くのも危うい、って感覚も、この残業三昧の日々で麻痺してしまって、今更ビルの前に男が一人現れても、誰も、驚きやしない。
 上京して変質者に追い回されることも多々あった身としては、男ひとりまくのさえ、たやすいことだ。
 携帯を見ずにビルを出たことに気づいた。……作りかけのプログラム。if文、分岐点。Switch-case文。金融で扱う言語はCOBOLやCがメインで分かりやすい一方で、こうして会社を離れてからも、いつまでも脳内で違う自分がプログラミングをしている。終わらないデバッグ。ちかちか残るディスプレイの残像。
 ぎゅ、とkate spadeのショルダーバッグの紐を握り締める。「……何の用」
「すはちゃん。冷てえなぁ。……メール一本で別れるもくそもないだろう」
 ……酒臭い。どうせ、他の女と飲んでいたのだ。
 都合のいい、便利な本妻が死ぬほどこき使われているというのに、そんな現実に見向きもせず、美味しいとこどりで。下手をしたらこっから自炊させられたりするのだ。
 彼氏は顔はいいのだが……改めて見てみると、パーマ片耳ピアスでチャラくて、こんな男のどこがいいものかと、我ながら呆れてしまう。
 浮気する男は最低。
 されるほうにも問題がある。
 ……大学生の頃は、そんな、青臭い理想を掲げていたのに。
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