敏腕CEOと契約結婚したら、攻略不能なほど溺愛されています
プロローグ
 人生で一番、追い詰められた夜だったと思う。
 どうしてこんな話になっているのだろう。

 先ほど彼から言われた言葉が、頭の中でぐるぐると回っていた。

「君のことは俺が助ける」

 目の前の彼――京極(きょうごく)碧人(あおと)さんは、落ち着いた声でそう言ったのだ。

「え、それはダメですよ」

 私は情けない顔で視線を下げ、ふるふると首を横に振る。
 家族でも、親戚でもない人に、こんな重たいものを背負わせるなんてできない。
 それなのに、彼は私を真っすぐに見つめたまま、少しも引こうとしなかった。

「その代わり……期間限定で俺の妻を演じてくれないか?」

 予想もしなかった提案に、頭が真っ白になる。

「俺と結婚すればいい」

 なにを言われたのか、すぐには理解できなかった。
 だけど、真剣な表情で伝えてきたこのときの彼を、私は一生忘れないと思う。

 ありえない話だ。だけどこの場ですぐに否定できない自分がいて、強引なのに優しい彼から目が離せなくなる。

「俺たちの利害、一致してると思うけど?」

 ――きっと、彼は私を憐れんでいるだけ。
 そう思うのに、私には差し出された手を取る選択肢しか残されていない。

 これは……利害一致の偽装結婚だ。
 彼は私を好きじゃない。この結婚に愛情なんて存在しない。

 わかっているのに、その腕を振りほどくことはできなかった。
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