空に吹く、風の音を教えて。
生徒は川高の2倍、一般客も大勢押し寄せているから、某有名テーマパークの繁忙期みたいな込み具合でもみくちゃにされながらも、12時開演のミスコン会場であるホールに辿り着いた。


「あれ?風ちんたちも来たん?」


私たちが到着するのとほぼ同時に光莉ちゃん、颯太ペアとも合流することになった。


「そろそろオレ噴火しそうだから」

「ふ、噴火?」


光莉ちゃんが小首を傾げると脇から颯太がアシストする。


「みつりん、そういうことだよ」

「ほお、そういうこと…!」


光莉ちゃんの口元がみるみる緩んでいく。

そしてなぜか私の脇腹を華奢な肘で小突いてくる。

そういうことってどういうこと?

今ので分かるってみんなの語彙力おかしくない?


「え?何?みんななんかおかしいよ」

「風ちん。ここらでチェックメイトしないと幸せ掴み損ねちゃうよ」

「え?だからさっきからなんの話…」


私が光莉ちゃんの話の先にしがみつこうとした、その時。

アナウンスが流れだした。

どうやら始まってしまうみたい。

仕方ない。

ひとまず見届けよう。

私たちは空いているスペースを見つけそれぞれ着席した。

今大バズ中のアイドルの曲が流れだし、会場の熱気も輪をかけて大きくなる。

参加者たちが座席の合間の道を通ってステージへと闊歩していく。

その中に、彼もいた。

遠目からでも圧倒的オーラを放ってるからわかる。

昔から変わらない。

ずっと眩しくて、遠い存在。

私はそれを眺めているだけで、

特別だとかなんだとか、思ったことないよ。

嘘、じゃない、よ。

今ドキドキしてるのは、

転校する前のあの日の謎が明らかになるのを恐れる気持ちが心のどこかにあって、

それが大きく作用しているだけで、

別に何とも、

何とも思って…。


「えーでは、ここで参加者の皆さんに特技を披露してもらいましょう!それではエントリーナンバー1番の神谷君から!」


私はあわててパンプレットを見直した。

浅羽くんは10番。

全学年5人ずつ出ているから2年生では最後か。

でも持ち時間は2分しかないから、あと20分くらいで浅羽くんの番になってしまう。

と、あたふたしているうちに順番が来てしまった。


「えーと、浅羽くんは何を披露してくれるのかな?」

「俺はギターやります!中学入学したときに父からアコギ買ってもらって、まあ今は軽音部の助っ人で専らエレキばっか弾いてますけど。アコギも練習し直したんで温かい目で見て耳で聞いていってもらえると嬉しいです」


まさかまさかの特技がギター…。

弥代くん、もしかして知っててライバル視してるとか。

納得した。

って、それより演奏集中しないと。

浅羽くんの演奏は浅羽くんそのものって感じがした。

聞いていると心地よくなって。

まるで新緑の大草原に寝そべって、爽やかな風に吹かれる、みたいな。

ずっと変わらず、あの頃のまま成長してきたんだって思った。

ふと、記憶がよみがえる。

同じクラスになって、気が付いたら話しかけられてて、

私からも話しかけるようになって。

理数系が得意な浅羽くんが算数を教えてくれて、

文系が得意な私が国語の読解のコツを教えたりして。

私が放課後図書室で本を読んでいると、何読んでるの?って、覗き込まれたり。

人見知りな私とは対照的で誰とでも仲が良かった浅羽くん。

私はきっと仲良くすべきクラスメイトの一人だったに違いない。

けど、私は…

勘違いしていたのかな。

浅羽くんと少し話したくらいで

特別になれる、いや特別だって思い込んじゃっていたのかもしれない。

あの頃の私は、バカだった。

だからあの日だって、

勘違いして。

きっと、そうだって。

絶対、そうだって。

信じて疑わなくて。

未来の約束がしたくて、

私は

待ってたんだ。


バカ。

バカ。

ほんと、バカだ。

気づいてて見て見ぬふりしてたけど、

本当は私…

浅羽くんの光を

独り占めしたかったんだ。


「浅羽くん、最後に一言いいですか?」


司会からそう声を掛けられ、浅羽くんはマイクを自分の口元に持ってきた。

クラス委員長だったからよく教卓の前に立って挨拶とか司会することが多くてこういう光景を何度も見てた。

そのたびに私は…

こんな風に胸がズキンと痛くなってたのかな。

懐かしくて痛い。

思い出は優しくない。

優しくなんて、な…。


「今朝嬉しいことがあって」

「え?」

「あ、唐突にすみません。でも言いたくて。言葉にしないと消えちゃうし、絶対…届かないと思うから」


浅羽くんの発言に会場がざわめきだす。

公開告白かなんて野次も聞こえてくる。

私の胸もバクバクして、身の毛はよだつし、体調不良っていうレベルでは片づけられないほど具合が悪い。

離席したいくらいだったけど、全身震えて力が入らないから無理だし、耐えしのぐしかないと悟った。

そして意識しなくても耳になじみの良い声が聞こえてくる。


「もう無理だって思ってたことに希望の光が差したんです。俺、ずっと後悔してることがあって、このままこの気持ちを抱えて生きていきたくはないって改めて気づけたんです。俺、向き合いたいんです、真正面から。…これ以上は言えないんですけど、とにかく後悔だけは二度とごめんなのでこのミスコンも全力で最後までやり遂げたいと思います!皆さん、浅羽昊透に投票よろしくお願いします!って、選挙演説みたいになっちゃった。あはは」


届いて、しまった。

さっきの話、きっと…

私のことだよね。

私、ずっと今まで勘違いしていた。

逃げていた。

怖くて、

怖くて。

でも、それは浅羽くんも一緒だったんだよね。

胸の痛みは引いてきたけど、まだチクリと痛む。

私も後悔してるんだ。

回り道してきたこと、

ちゃんと向き合わなかったこと、

それでこじらせて、必要以上に浅羽くんを悩ませ傷つけてしまったこと。

これ以上は…ダメだ。

前に進むためにちゃんと向き合わないと。

やっと、覚悟ができた。

私…伝える。

あの日言いたかったこと、

あの日思っていたこと、

それに

今の気持ちも。
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