記憶障害の男と写真家の恋♡消せない過去
愛斗はふみをそっと抱き起こすと、三人はそれぞれ出かける支度を整えた。
行き先は、貞夫の後輩が営む中華料理店「もっちゃん」だ。店に入ると、奥の席に三人は腰を下ろし、チャーハンと皿うどんを注文する。
料理が運ばれてくると、ふみは自分の分だけでは足りないというように、愛斗と貞夫の皿にもチャーハンを少しずつ分けて渡した。二人は笑みを浮かべながら、それを受け取って食べ進める。
和やかな話が続いていたそのとき、店の戸が開いて二人の男が入ってきた。昔、貞夫が勤めていた工場で働いていた従業員の息子、真と稔だ。彼らの両親は当時からの顔見知りであったが、二十年前に起きた殺人事件で命を落とし、犯人は今も捕まっていないままだった。
「いらっしゃいませー」
店の主人・幸輝が声を上げるが、ちょうどそのとき宅配便の配達員が来たため、荷物を受け取ってサインをするために奥へと引っ込む。
真と稔は店の奥で、かつて貞夫が勤めていた工場の話を始めた。
声を抑えて話すその内容を、ふみたちは自然と耳にしてしまう。
「あの工場のことがはっきりわかれば、きっと……」
「きっと何?」
「……ふみちゃん?」
突然声をかけられ、ふみははっと顔を上げた。
「二人とも、久しぶり。警察官になったって、もっちゃんから聞いたわ」
「ふみちゃんは元気にしてた?」
「うん。こちらは愛斗くん、私の彼氏なの。お父さんも変わらず元気よ」
「それはよかった」
ふみは少し身を乗り出すように問いかけた。
「そういえばさっき話していたけど、二人は工場の何を調べているの?」
真と稔は一瞬視線を交わし、稔が答える。
「昔工場で作っていたロボットが壊れてしまってね。使われていた金属の種類を確認したくて、調べているだけです」
「……本当に、それだけ?」
「そうだよ。それよりふみちゃんこそ、何か隠していることはないかい?」
「私?」
「ええ。何か心当たりがあるんじゃないですか」
ふみは言葉に詰まり、すぐに視線を逸らした。
「もっちゃん、先に会計してもらってもいい?」
「あ、はい、すぐに」
「それは答えになっていない。ふみちゃん、はっきり答えてもらおうか」
追及する声が迫る中、ふみは愛斗と貞夫に向き直って立ち上がった。
「愛斗くん、お父さん、帰りましょう」
問いかけを完全に無視して、ふみは先に店の出口へと向かう。愛斗と貞夫も黙ってその後に続いた。
――それから次の日。
ふみが家でくつろいでいると、玄関の呼び鈴が鳴った。扉を開けると、そこには幸輝がいた。カルはこの家の家政婦として働いており
幸輝は迎えに来たのだ。
「カルさん、今日はもう上がっていいわよ」
「ありがとうございます。最後にお風呂掃除だけ済ませてきますね。それと、コーヒーを淹れておきました」
「ありがとう。ねえ、少し飲んでいかない?」
「はい、いただきます」
「ところで、昨日店にいたあの兄弟――私が帰ったあと、何か特別な話をしていなかった?」
幸輝は瞬目を泳がせたが、すぐに落ち着いた声で答える。
「いえ、特に何も話していませんでしたよ」
「……そう」
「はい、本当です」
ふみは冷ややかな眼差しを向ける。
「嘘はいけないわ。嘘をつくなら、これを聞いてからにして」
スマートフォンを取り出し、再生ボタンを押す。流れ出したのは、昨日の店内で録音された会話――鉄砲に関する話題だった。それは、貞夫がかつて密造したとされる鉄砲のことに他ならない。
幸輝の顔色がさっと変わる。
「まさか……盗聴器でも仕掛けていたんですか?」
「私を疑うなんて、ひどいじゃない」
「いえ、そんなつもりは……ごめんなさい」
ふみは声音を低く、命令するように続けた。
「じゃあ、話は簡単。あの二人から、事件に関する証拠を盗んできてちょうだい」
「そんなこと、できません」
「できないなら仕方ないわ。カルさん、明日からこの家の仕事はなしにする。それでもいいの?」
「それだけはやめてください!」
「なら、やるしかないわね?」
「……はい、わかりました」
行き先は、貞夫の後輩が営む中華料理店「もっちゃん」だ。店に入ると、奥の席に三人は腰を下ろし、チャーハンと皿うどんを注文する。
料理が運ばれてくると、ふみは自分の分だけでは足りないというように、愛斗と貞夫の皿にもチャーハンを少しずつ分けて渡した。二人は笑みを浮かべながら、それを受け取って食べ進める。
和やかな話が続いていたそのとき、店の戸が開いて二人の男が入ってきた。昔、貞夫が勤めていた工場で働いていた従業員の息子、真と稔だ。彼らの両親は当時からの顔見知りであったが、二十年前に起きた殺人事件で命を落とし、犯人は今も捕まっていないままだった。
「いらっしゃいませー」
店の主人・幸輝が声を上げるが、ちょうどそのとき宅配便の配達員が来たため、荷物を受け取ってサインをするために奥へと引っ込む。
真と稔は店の奥で、かつて貞夫が勤めていた工場の話を始めた。
声を抑えて話すその内容を、ふみたちは自然と耳にしてしまう。
「あの工場のことがはっきりわかれば、きっと……」
「きっと何?」
「……ふみちゃん?」
突然声をかけられ、ふみははっと顔を上げた。
「二人とも、久しぶり。警察官になったって、もっちゃんから聞いたわ」
「ふみちゃんは元気にしてた?」
「うん。こちらは愛斗くん、私の彼氏なの。お父さんも変わらず元気よ」
「それはよかった」
ふみは少し身を乗り出すように問いかけた。
「そういえばさっき話していたけど、二人は工場の何を調べているの?」
真と稔は一瞬視線を交わし、稔が答える。
「昔工場で作っていたロボットが壊れてしまってね。使われていた金属の種類を確認したくて、調べているだけです」
「……本当に、それだけ?」
「そうだよ。それよりふみちゃんこそ、何か隠していることはないかい?」
「私?」
「ええ。何か心当たりがあるんじゃないですか」
ふみは言葉に詰まり、すぐに視線を逸らした。
「もっちゃん、先に会計してもらってもいい?」
「あ、はい、すぐに」
「それは答えになっていない。ふみちゃん、はっきり答えてもらおうか」
追及する声が迫る中、ふみは愛斗と貞夫に向き直って立ち上がった。
「愛斗くん、お父さん、帰りましょう」
問いかけを完全に無視して、ふみは先に店の出口へと向かう。愛斗と貞夫も黙ってその後に続いた。
――それから次の日。
ふみが家でくつろいでいると、玄関の呼び鈴が鳴った。扉を開けると、そこには幸輝がいた。カルはこの家の家政婦として働いており
幸輝は迎えに来たのだ。
「カルさん、今日はもう上がっていいわよ」
「ありがとうございます。最後にお風呂掃除だけ済ませてきますね。それと、コーヒーを淹れておきました」
「ありがとう。ねえ、少し飲んでいかない?」
「はい、いただきます」
「ところで、昨日店にいたあの兄弟――私が帰ったあと、何か特別な話をしていなかった?」
幸輝は瞬目を泳がせたが、すぐに落ち着いた声で答える。
「いえ、特に何も話していませんでしたよ」
「……そう」
「はい、本当です」
ふみは冷ややかな眼差しを向ける。
「嘘はいけないわ。嘘をつくなら、これを聞いてからにして」
スマートフォンを取り出し、再生ボタンを押す。流れ出したのは、昨日の店内で録音された会話――鉄砲に関する話題だった。それは、貞夫がかつて密造したとされる鉄砲のことに他ならない。
幸輝の顔色がさっと変わる。
「まさか……盗聴器でも仕掛けていたんですか?」
「私を疑うなんて、ひどいじゃない」
「いえ、そんなつもりは……ごめんなさい」
ふみは声音を低く、命令するように続けた。
「じゃあ、話は簡単。あの二人から、事件に関する証拠を盗んできてちょうだい」
「そんなこと、できません」
「できないなら仕方ないわ。カルさん、明日からこの家の仕事はなしにする。それでもいいの?」
「それだけはやめてください!」
「なら、やるしかないわね?」
「……はい、わかりました」
