記憶障害の男と写真家の恋♡消せない過去
「ありがとう、頼りになるな」
「いえ、ふみさん。僕、ふみさんが好きです。付き合ってください」
突然の告白に、ふみは少し目を丸くして答えた。
「えっ、私、彼氏がいるの。ごめんね」
「そうなんですね……こちらこそ、突然ですみませんでした」
「ううん。これから彼とデートなの?」
「ええ、楽しんでください」
「ありがとう。またよろしくね」
そのとき、ふみのスマホが鳴った。画面には愛斗の名前が表示されている。彼女はすぐに電話に出ると、さっきまでの調子とは打って変わって、甘えるような柔らかい声で話し始めた。
通話を終えて歩き出したふみだったが、自分がハンカチを落としたことには気づいていなかった。後ろにいた幸輝がそれを拾い、届けようと追いかけるが、すでに姿は見えなくなっていた。
一方ふみは、待ち合わせ場所にいた愛斗のもとへたどり着くなり、彼の胸元に顔を埋めて口づけを交わし、さらに甘えた声を出す。
「ねえ愛斗くん、今日ね、もっちゃんに告白されちゃったの。でもすぐに断ったよ。あんなおじさんタイプ、全然好みじゃないし、正直ちょっと気持ち悪かった」
愛斗は柔らかく笑って彼女の頭を撫でる。
「そっか」
「うん。愛斗くんはあいつと違って、かっこいいから安心できるわ」
そこへ貞夫も合流し、三人で歩き出そうとしたとき、息を切らした幸輝が追いついてきた。
「どうしたの? 何かあったの? 大丈夫?」
「これ、落としてました」
幸輝は手に持ったハンカチを差し出す。
ふみは一瞬、嫌そうな顔を浮かべた。
「え、ありがとう。別に困ってなかったけど」
「え、でも……」
彼女は指先二本だけでハンカチの端をつまみ、まるで汚れたものでも扱うように受け取ると、すぐそばにあったゴミ箱へ放り込んだ。
「ハンカチ、いらないの?」
「うん。知らない人が触ったから、雑菌がついちゃったでしょ」
あっけらかんと言い放つふみの様子を、偶然通りかかった真が聞いていた。彼はすぐに怒りを抑えられず、前に出て声を上げる。
「そんな言い方があるか! もっちゃんの気持ちを少しは考えろ!」
ふみは無表情で、まるで聞こえていないかのように相槌も打たない。すると真は隣にいる貞夫へと向きを変えた。
「あんたも父親だろう! 娘のこの態度、叱ってやれよ!」
貞夫はぼんやりと遠くを見つめたまま、何も答えない。それにますます腹を立てた真は、彼の胸元を掴んで揺さぶる。
「無視するな! 何か言え!」
その瞬間、ふみが前に出て真の腕を強く掴み、引き離した。
「やめて! 手を出さないで!」
彼女は真の目を真っ直ぐに見つめ、声を落として続ける。
「……悪かったわ。謝るから、許してください」
「最初からそう言えばいいんだ」
ふみは口元だけで笑みを作り、もっちゃんに向き直る。
「もっちゃん、ごめんなさい」
「うん、わかった」
「ありがとう」
その様子を見ていた愛斗が、ふみの肩を抱き寄せ、真を睨みつけるように一歩前に出た。
「俺の女に手を出すな」
「いや、今回は明らかにふみちゃんが悪いだろう」
愛斗が何か言い返す前に、ふみが肩を震わせて涙ぐむような声を出す。
「愛斗くん、怖かった……私、何も悪いことしてないのに、無理やり謝らされて……」
愛斗は彼女を強く抱きしめ、鋭い視線で真たちを突き放す。
「これ以上、ここにいるな。消えろ」
「愛斗くん、ありがとう。助かったわ」
「うん、大丈夫だ」
真はため息をつきながら、ふみに言った。
「ふみちゃん、昔はもっと優しい人だったのにどうしてこんな風になっちまったんだ」
ふみはその言葉には答えず、愛斗と貞夫の腕を取って明るく声を上げる。 
「愛斗くん、お父さん、今日は一緒に買い物に行きましょう!」
「ああ」
愛斗の横に並んだふみは、さっきまでの柔らかい雰囲気を一変させ、口の端だけを上げて冷笑を浮かべた。       」
「まったく、面倒くさい人たちね」
愛斗に話しかけるときだけ、また甘えるような口調に戻るのだった。


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