うちら4人幼馴染、2人の両片思いたちが不器用すぎる!
1月中旬、共通テストの当日。
朝から外は、しんしんと冷たい雪が降っていた。
「あ、最悪……電車、遅れてる」
駅の電光掲示板を見上げて、私は青ざめた。
受験会場に向かう電車が、雪の影響で止まっていたのだ。焦りと寒さで、手袋をした指先がガタガタと震え出す。
「……おい」
後ろから、低くて少し不機嫌そうな声がした。
振り返ると、大きなマフラーに顔を埋めた空くんが立っていた。
彼の手も、寒さのせいか、それとも緊張のせいか、かすかに震えている。
「空くん……」
「これ、隣の駅の路線なら動いてるらしいぞ。……走るぞ、真奈」
空くんが私の名前を「お前」じゃなく「真奈」って呼んだのは、あのW大勘違いの日以来だった。
空くんは私のコートの袖をがっしりと掴むと、雪の積もる道を力強く走り出した。
「転ぶなよ! 足元見ろ!」
「うん……っ!」
私のために必死になってくれる、大好きな背中。
試験会場の門の前に着いたとき、空くんは私の袖をパッと離し、前を向いたままぶっきらぼうに言った。
「……じゃあな。絶対に落ちんなよ」
「空くんも……! 頑張って!」
それが、私たちの短い、だけど半年ぶりのまともな会話だった。


2月。私と空くんは、それぞれの大学の個別試験を終え、合格発表の日を迎えた。
結果は――私も空くんも、第一志望に「合格」。
私は東京の大学へ、空くんは京都の大学へ行くことが決まった。
普通なら大喜びするはずなのに、私の胸にあるのは、言葉にできない寂しさだけだった。
これで本当に、私は東京へ引っ越してしまう。空くんとは離れ離れだ。
その日の夕方、私は瑠香ちゃんに呼び出されて、久しぶりに4人でよく集まったあの地元の公園へ向かった。
ベンチには、すでに瑠香ちゃんと春馬くんが座っていた。
そして少し離れた木の下に、ポケットに手を突っ込んだ空くんが立っていた。
4人が揃うのは、あの6月の事件以来、初めてのことだった。
「みんな、合格おめでとう」
瑠香ちゃんが少し寂しそうに笑う。瑠香ちゃんは地元の大学へ進学が決まっていた。
「真奈、本当に東京行っちゃうんだね。春馬も東京だし、向こうでも仲良くね」
瑠香ちゃんが何気なく放ったその一言に、私は「え?」と目を見開いた。
「え……? 春馬くん、東京なの? 初めて聞いた……」
「は!? ながまな、俺が東京の経済学部に行くって、夏前からずっと言ってたじゃん!」
春馬くんが呆れたようにツッコむ。
その瞬間、木の下にいた空くんが、弾かれたようにこちらを振り返った。
「……待てよ」
空くんが、地を這うような低い声で春馬に詰め寄った。
「春馬、お前……真奈と付き合ってるんじゃねぇのかよ? 2人で一緒に東京行くんだろ!?」
「はぁ!?」
春馬くんが本気で嫌そうな顔をした。
「何言ってんだよお前! 俺は好きな人なんていないよ? ながまなとはただの友達だし、進路指導室の壁ドンだって、上から荷物が落ちてきて庇っただけの事故だって何回言えばわかるんだよ、この大バカ!」
「え……っ!?」
今度は私が声を上げた。
「春馬くんの好きな人は、いない……? じゃあ、空くんがバレー部の部室裏で、瑠香ちゃんとキスしそうになってたのは……!?」
「真奈、それも大誤解だよ!」
瑠香ちゃんが慌てて両手を振った。
「あの時、私がボールに足を取られて転びそうになって、空が受け止めてくれただけ! 私は空のことなんて1ミリも好きじゃないし、空がずっと好きなのは――」
瑠香ちゃんがそこまで言ったとき、空くんが顔を真っ赤にして、瑠香ちゃんの口を手で塞いだ。
私の頭の中は、パニックで爆発しそうだった。
空くんは、瑠香ちゃんのことが好きじゃなかった。
お互いに、相手が別の幼馴染と付き合っていると思い込んで、勝手に傷ついて、勝手に距離を置いて、勝手に絶望していたのだ。
あまりにも不器用で、あまりにもプライドが高くて、相手の気持ちを確かめる勇気がなかっただけの、大バカ者。
だけど、真実がわかったところで、もう遅い。
時計の針は止まらない。
明日には卒業式がやってきて、その数日後には、私は東京へ、空くんは京都へ、別々の新幹線に乗って旅立ってしまう。

その日の夜。303号室の私の部屋で、荷造りをしていると、ベランダの窓がコンコンと叩かれた。
窓の外を見ると、冷たい冬の夜風に吹かれながら、空くんが立っていた。
あの日以来、ずっと閉まったままだった、304号室の窓が開いていた。
「……真奈。ちょっと、顔出せ」
これまでで一番、優しくて、切なくて、今にも泣き出しそうな空くんの声が、静かな夜の空気に響いた。
< 29 / 31 >

この作品をシェア

pagetop