桜の木の下で、出会った僕たち
 放課後、自転車を漕いでいると隣から声がした。
 声の主は…咲良だ。
「ねえ、光って家どこなの?」
「びっくりした。家?すぐそこの団地の家だけど」
 僕は右斜め前にある方を指差した。
「咲良は?」
「私は光の家の団地の、もう一つ後ろの団地だよ」
 会った時に聞いていなかったから、もう少し遠くに住んでるんだと勘違いしていた。
「ねえ、暇ならさこの前の公園行こうよ」
「うん、カメラも家に取りに行こっか?」
「良いじゃん!」
 その何とも言えない笑顔が、太陽の光と一緒に輝いている。

 僕たちはカメラをカバンに入れて、桜の咲く公園に向かった。
 満開の桜の下には、珍しく誰もいなかった。
「ねえ、光」
 咲良は桜の下に着いた時そう言った。
「なに?」
 隣を見ると、少し顔を赤らめた咲良がいた。
「好き。一目惚れした」
 映画の大きなスクリーンでしか聞いたことがなかった言葉を僕は聞いた。
 今まで恋なんかしなかった自分に、好きな人ができたなんて恥ずかしくて、もどかしくて、認められなかった。
 分かってる、僕だって咲良のことが、
「うん。僕もさ咲良と最初に会った時から好き」
 恥ずかしてく顔なんか見れない。少し下を向く。咲良の可愛くて明るいところも好きだけど、好きになった理由も他にあった。
「僕はさ、毎年毎年この大好きな桜を撮りにくるのが恒例なんだけど、いつも歩く人に白い目で見られるの。一人で高そうなカメラで写真を撮っている僕が、花をゆっくり見たい人にとって邪魔なんだと思う」
 咲良の方を向くと、優しい表情で話を聞いてくれていた。
「でも、咲良は違った。いや、咲良だけは違った。写真を撮っている僕に話しかけてくれた。これがさ何よりも嬉しかった」
 ふっ、と咲良は笑った。
「そういうところ、なんか可愛いよね。私はさ、光の優しさに惚れたの。光は光の大切で大好きなカメラを貸してくれたのが嬉しかったの。単純かも知れないけど、桜が好きっていう共通点もあるし、いつのまにか惹かれてた」
 ちょっと私単純すぎるかな、って小さく微笑む咲良が可愛い。
 僕はそうやって自分を褒めてくれる咲良がどんどん好きになっている。
「じゃあさ付き合おうよ」
 自分が今どうしてこんなこと言ったかなんて分からないけど、口が勝手に動いていた気がする。
「うん。よろしくね、光」
「よろしく、咲良」
 風が吹き、ひらりと桜の花びらが落ちる。咲良の頭の上にも僕の頭の上にも。
 僕たちは、桜の木の下で、小さな恋をした。
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