終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
ワタセホテルに着き、綾人と別れたあたしは館内を散策していた。
正直、自分には縁のない場所だと思っていた。
ふかふかした絨毯の廊下を通り抜けて、庭園に出る。
ロビーラウンジから見えていた立派な日本庭園。
厳しい夏の暑さでも、草木が枯れないようしっかり管理されている。

(見えないところも手を抜いていない……これが一流)

改めて見る、これが綾人が背負う世界。
あたしにその伴侶が務まるだろうか。

不意に、感じたことのない重圧が、朝の幸せな日常に影を落とす。
また昔の自分が悪いところが顔を出した。 
 
(違う、あたしが綾人を選んだ……そこを間違えない)

きゅっと左手首を握りしめる。
小さな輝きに助けられるみたいに、ゆっくり息を吐いた。 

(大丈夫、勝手に怯えたりしない) 
 
「藤原さん」

呼ばれた声に、体がピクリと跳ねる。
振り返ると、上品なワンピースに身を包んだ九条さんがいた。   
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