終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
「藤原さんの仕事ぶりも、間接的だが見させていただいたよ」
「その節は、大変ご迷惑をおかけしました」

今さらかもしれないが、謝らずにはいられなかった。
膝の上に乗せていたタオルを握りしめる。 
  
「顔をあげて。藤垣統括責任者から事情は聞いてるよ」
「藤原さん。君は、綾人を選んだことを後悔しないかい?」

あの日、パーティー会場で問われたときは、答えられなかった。
でも、今は違う。
 
左手首にあるアンクレットを撫でる。
あたしは一度、呼吸を整えた。
そして、迷いなく、ちゃんと社長の目を見て答える。  
 
「はい」
「藤垣綾人さんじゃなきゃ、ダメなんです。彼の隣が、私にとって幸せなんです」

社長は見定めた瞳で、深く頷く。
そして、綾人と同じ笑みで、あたしの手を取った。
 
「そうか、やっぱり君は面白いね。綾人のことをよろしくお願いします」
「あの子は、人に甘えるのが下手なんだ」

綾人のあの不器用な優しさを思い出すと、自然に笑みが溢れる。
 
「知っています。こちらこそ……よろしくお願いいたします」 

その顔は社長でも、経営者でもない。
息子の幸せを願う一人の父親の顔だった。
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