終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
「はぁはぁ……やばい……めっちゃ楽しいっ」
「そりゃ良かった」

MCの場面に変わり、あたしたちは水分補給する。 
相変わらず、綾人の息は余り乱れていない。
あたしは、ラグにペタンと座り込んだまま、肩で息をしていた。

「ほんと……体力オバケ……」
「まだ汗かくからな」
「は?」
「当たり前だろ、次はベッドで——」
「エロ禁止っ!」
「だから見終わってからな」
「ライブに集中してっ!」  

ニヤつく綾人の肩を叩くも、あたしの顔が赤くなった。
 
その後もライブは続き、とうとうメンバーの最後の挨拶に差し掛かる。
そして最後の曲が始まる頃には、もう涙が止まらなかった。
 
綾人がティッシュを差し出して、「毎回こうなのか?」と顔をのぞきこむ。
貰ったティッシュで拭いても、また溢れてくる。
巻いていたタオルも汗と涙で、ぐちゃぐちゃだった。
  
「毎回。でもっ……今回はやっぱり特別……」
「大変だな」

その言葉よりも、肩を抱き寄せ頭を撫でてくれる。

(綾人はいつも態度で優しさを示してくれる……)

それが嬉しくもあり、好きが積もる瞬間なのだ。

「ありがとうっ……綾人っ」
「ん」
「そしてありがとうーっ!いち様ぁぁ!大好きーっ!!」
「何でだよ」 
「何が?」 
「……俺もいるだろ」
「ふふっ、もちろんっ」  

綾人に出会わなければ、このDVDはきっと悲しみでしか観ることができなかっただろう。

だから、このライブを笑って観られたのは、綾人が隣にいてくれたから。

「推しは推し。でも、 一番大事なのは綾人」
「知ってる」

綾人はそう言って立ち上がる。
ちょっと意地悪で、でも優しい笑みを浮かべながら。
 
「ロイヤルミルクティー淹れてやるよ」 

綾人の背中に、ぎゅっと抱きつく。
  
推しは人生を彩ってくれる。
でも、人生を一緒に歩いてくれるのは綾人だった。
あたしは、囁くように恋を呟いた。 

「ありがとっ……綾人、大大好き」
  
—完—       
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