終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
窓の外を流れていく景色をぼんやり眺める。
出張は無事に終わった。
新規開拓の成果も悪くない。
クライアントからの評価も上々。
なのに。
体より胸の奥が鉛のように重く苦々しいまま。
「やっぱり、いち様のソロパートはいいなぁ……」
イヤフォンから流れてくるのはいち様の歌声。
ファイブスターという、いち様が活動していたグループの過去のライブ曲をリピートしている。
——なのに。
浮かんでは消える九条さんの言葉。
(フリだから……ワタセホテルにとって利益があるのも、あたしなんかより……)
萎んでいく心が、昔のキラキラしたいち様に救われる。
現在から目を背けるように、過去の曲を聞き入っていった。
(この頃は、いち様のライブ行くの楽しかったなぁ)
(変わらなくて、良かったのに)
(……恋なんてしないで、鑑賞用のままで良かったのに)
もう少しだけ、昔のいち様に夢見ていたかった。
突然、スマホが震え、ビクッと体が跳ねる。
デッキエリアに移動して、通話ボタンを押す。
「悪い。花火大会なんだが——」
「うん」
「行けなくなった」
「……そっか」
「仕事が入った。埋め合わせするから」
「……大丈夫」
「志穂」
「仕事なら仕方ないよ」
まだ何かを聞かされる前に、怖くなって通話を切る。
思った以上の衝撃で、壁に背中を打った。
「……仕事なら……仕方ない」
鼻の奥がツンと痛む。
自分でも驚くくらい、花火大会を楽しみにしていたなんて。
(綾人だから……行きたかったのに)
気付いた本音を、誰にも言えないまま。
あたしはそっとスマホの画面を伏せた。
届いたばかりの朝顔の浴衣も。
楽しみにしていた花火大会も。
まだ始まってもいないのに。
どこか終わってしまった気がした。
——打ち上げ花火は、上がらなかった。
出張は無事に終わった。
新規開拓の成果も悪くない。
クライアントからの評価も上々。
なのに。
体より胸の奥が鉛のように重く苦々しいまま。
「やっぱり、いち様のソロパートはいいなぁ……」
イヤフォンから流れてくるのはいち様の歌声。
ファイブスターという、いち様が活動していたグループの過去のライブ曲をリピートしている。
——なのに。
浮かんでは消える九条さんの言葉。
(フリだから……ワタセホテルにとって利益があるのも、あたしなんかより……)
萎んでいく心が、昔のキラキラしたいち様に救われる。
現在から目を背けるように、過去の曲を聞き入っていった。
(この頃は、いち様のライブ行くの楽しかったなぁ)
(変わらなくて、良かったのに)
(……恋なんてしないで、鑑賞用のままで良かったのに)
もう少しだけ、昔のいち様に夢見ていたかった。
突然、スマホが震え、ビクッと体が跳ねる。
デッキエリアに移動して、通話ボタンを押す。
「悪い。花火大会なんだが——」
「うん」
「行けなくなった」
「……そっか」
「仕事が入った。埋め合わせするから」
「……大丈夫」
「志穂」
「仕事なら仕方ないよ」
まだ何かを聞かされる前に、怖くなって通話を切る。
思った以上の衝撃で、壁に背中を打った。
「……仕事なら……仕方ない」
鼻の奥がツンと痛む。
自分でも驚くくらい、花火大会を楽しみにしていたなんて。
(綾人だから……行きたかったのに)
気付いた本音を、誰にも言えないまま。
あたしはそっとスマホの画面を伏せた。
届いたばかりの朝顔の浴衣も。
楽しみにしていた花火大会も。
まだ始まってもいないのに。
どこか終わってしまった気がした。
——打ち上げ花火は、上がらなかった。