終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
昼食のサンドイッチを食べているのに、味気がない。 
社内のカフェテリアで、お気に入りのミルクティーなのに気持ちは晴れない。

「頭ではわかってるんだけどなぁ……」

マイナス思考に取り憑かれそうになる。
あたしは気分転換に、昼食と一緒に買った経済情報誌を引っ張り出す。

(トレンド商品チェックしとこ……あっ……)

ページをめくっていると、目に飛び込んできたあおり文と写真。
【特集 次世代女性リーダー 九条グループ副社長 九条麗華】

「……うそ」

今一番見たくなかった人物。
挑むような力強い瞳が、あたしを射抜く。
    
「"三十一歳で副社長就任"……"伝統と革新を両立する経営者の魅力に迫る"」

特集されている記事を追っていく。
勝手に頭の中で、九条さんが話しているみたいに再生してしまう。
 
「社員一人ひとりが働きやすい職場環境を大切にしている」
「失敗も貴重な経験ですから、恐れずに飛び込んでいく」 
 
——藤原さんはお仕事もできる方
  
(あの人……ほんとに別世界の人なんだ)
(性格まで良いとか反則でしょ……)

「……そりゃ敵うわけないか」
(綾人が選ぶのも、分かる気がした)
 
いつもよりマスタードの辛味が舌先に残る。 
手が無意識にメッセージアプリを開いていく。
新着通知は、仕事関係や広告ばかり。 
思い浮かべる相手との最後のやり取りは、三日前のままだった。
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