終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
「あと、推し活です!」
「「え?」」 
「私も興味があって調べたんですが……あ、前回の資料にも提案しているんですが、アクスタと一緒に体験して投稿するのも、かなりの拡散率が見込めますっ」

綾人が口元をおさえて笑いを堪えているのが見える。

『それはお前だろ』
(……バレてる)
 
「ただ……伝統と格式を大切にされているワタセホテルさんにどこまで映えを意識していただくかにはなりますが……」
「いいんじゃね。それはそれでプランが別にあるし」
 
数字を見た九条さんも悪くないといった表情だ。
 
「SNS投稿率は高そうですね」
 
懸念材料だったこともクリアになり、あたしはひと息つく。 
九条さんがさっそく今日の内容を、軽くまとめ上げていった。
その様子に本音がポロリとこぼれ落ちる。
   
「……やっぱり九条さんは凄いですね」
「藤原さんも凄いですよ」
「そんなことないです」

謙遜ではない。
ほんとに、そんなことないのだ。
   
「客目線で考えられるのは志穂の強みだ」
「私もそう思います」
「だから推し活案もプランに組み込んだ。公私混同はしない」

(「志穂」って名前呼びは違うの?!) 

わかっているのに、どことなく九条さんに負けっぱなしのような気になる。
資料をカバンに入れて帰ろうとしたとき、綾人が軽く手招きした。
側に行くと、ぐいっと腰を引かれる。
     
「志穂、少し遅くなる。風呂沸かしといて」
「ちょっとっ……仕事中でしょっ」
  
鮫島の「きゃぁぁ」という悲鳴が聞こえてきた。
 
「気をつけて帰れよ」
 
最後の言葉は、囁きに変わる。
いつもより濃く薫る香水に、心臓が早鐘を打つ。 
あたしの反応に満足したように、綾人は出ていった。  
後ろにいた鮫島が興奮気味に駆け寄る。
 
「先輩の彼氏がまさかワタセホテルの……しかも統括責任者だったなんてっ!」
「……そうみたいね、初めて聞いた」 
「しかも、あの九条さんにも褒められてましたよね!」
「そんなことないわよ」  
「でも私、先輩みたいになりたいです!」
「やめときなさい」

あたしは苦笑いするも、彼女は本気みたいだ。
 
「私、もっと頑張ります!」
「焦らなくていいのよ」
「SNSももっと広報に結び付くよう勉強します!」 
「そうね。一緒に頑張ろう」
 
その笑顔を見て、鮫島の肩を叩く。

その時のあたしはまだ知らなかった。
 
鮫島のたったひとつの投稿が、ワタセホテルを巻き込む騒動になるなんて。 
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