終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
打ち合わせが再開し、先ほど上がった問題点について、議論を交わしていく。

「大々的に宣伝して周知を狙いたいところですが……」
 
轟さんの言葉に、大垣さんが資料へ目を落とす。
 
「予算も厳しいですね。できるなら著名人を起用したいところですが——」
 
そこで九条さんが静かに口を開いた。
 
「費用対効果が見合いません」
 
きっぱりと言い切った声に、会議室が静まり返る。
 
「こちらをご覧ください」
 
プロジェクターに数字が映し出される。
 
「著名人を起用した場合の予想認知数は約三倍。ですが、予約率は一・二倍程度です」
「つまり認知は増えますが、売上は比例しません」
「なるほど」

綾人が静かに頷く。
  
「ならば予算は体験価値へ回すべきです。想定客単価がこちらで——」

綾人と九条さんが、さらさらと資料に数字を書き込んでいく。

(早い……)
(これが実行力につながる……)
(……やっぱり綾人も九条さんも凄い) 
 
あたしが理解する前に、もう答えが出ている。
出る幕がない二人のやりとりに、他のメンバーが静かに見守っていた。
すると、綾人がプロジェクターから視線を外した。

「志穂はどう見る?」
「は?……え?」

急に……しかも名前呼びされて、すっとんきょうな声が出た。

(ちょっとっ……公私混同でしょ!)

その瞬間、九条さんの刺すような瞳とぶつかる。 
慌てて綾人を睨んで見せるも、気にも留めていない。
それより、早く答えてみろとの圧がかかる。        
  
「コストカットの面で言うと、広告塔を作るのではなく、お客様自身に発信していただく仕組みを考えるべきです」
「例えば?」
「SNS投稿前提の設計にします。写真を撮りたくなる空間を作り、拡散はお客様に任せる……と」
「いいな、それ」

あたしの案を、躊躇うことなく書いていく綾人。
それに背中を押されたように、提案を続ける。
    
「あとは、スタッフさんとかどうですか?」
「後ろ姿とか体のパーツだけでもいい。それにお客様を案内する姿とか。四季を通じて変わる館内の生け花……働いてる人やホテルの雰囲気や大事じゃないですか」

鮫島も同調したように、呟く。

「私もプライベートで訪れた旅館のご飯とかをSNSに投稿しています。そこに旅館から反応が返ってきたら、また行こうって思いますね」

轟さんも「わかります」と頷いている。
あたしはこの流れに乗っかっていく。
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