終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
知る前と、知った後。
態度が変わるやつなんて、腐るほど見てきた。
神代もその一人だ。

その中で、麗華は悪くない。
仕事もできるし、能力も高い。
話も合う。
華々しい容姿を、鼻にかけていない。 
家同士の釣り合いも取れている。
誰が見ても理想的な相手だった。
 
クソ親父が、推してきたのも分かる。
だからこそ、俺の意思なんて必要なかった。
正直、麗華に対してあるのは、ビジネスパートナーとしてだ。

ただ、結婚相手として語られる未来に息が詰まった。  
 
「結婚とか……面倒くせぇ」
(違うな、両親を見てるから、結婚に幸せを見出だせてないだけだ)

優しく笑うマスターがブルームーンを渡してくる。 
  
「綾くんにもきっと現れますよ、普通なのに奇跡みたいな恋が」

小さい頃から知っていて、ワタセホテルのBARラウンジから独立したマスター。
俺にとって、BARビーナスベルトは、もう一つの実家だ。 
 
「甘っ……やっばいつものがいい」
「はいはい」   
   
もういい。
時間の無駄だ。

——どうせ、誰も見てねぇ。
 
今の“藤垣綾人”は見ても、
本当の“俺”なんて見ちゃいない。
 
そう思ってた。
あの日までは。
 
「いらっしゃい」
 
夜が深くなった頃、ビーナスベルトの扉が開く。
 
「こんばんは」
 
少しだけ疲れた顔で笑ったその女を見た瞬間。
俺の退屈な日常は終わった。
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