終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
意外と、仕事は楽しいし、性に合っている。
昇進もして、部下もいる。
友人もいる。
金もある。
女に困ったこともない。
でも。
 
——だから何だ。

婚約者みたいなのも、何人かいた。 
 
「綾人さんって、本当にすごいですよね」 
「ワタセグループのご子息なんて、知らなくて……」

腐るほど聞いてきたセリフは、BARビーナスベルトで楽しんでいたときにもあった。 
勝手に隣に座る女が、さっきからよく喋る。 
 
「昔にお会いしたことあるんですよぉ?」
「知らね、渡瀬のとき?」
「そうなんですっ!嬉しいっ」  
 
(……ほんと、わかりやすい)

この女が誰かなんて、どうでもいい。
どうせ、あのクソ親父が仕組んだ見合いで会った一人だろ。
 
「名前知った瞬間、距離詰めてくるの、やめろよ」
 
冷たく落とした言葉に、「えっ……」と一瞬だけ、女の表情が強張る。
でも、すぐに胡散臭い笑顔を作る。
 
「そんなことないですよぉ」
 
(……そういうとこな)
 
グラスを置いて、舌打ちした。  
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