好きなのは匂いだけだったはずなのに。〜完璧上司の独占欲が止まりません〜
肌に纏わりつくような熱気。
噎せ返りそうなアルコールの匂い。

成人してから幾度も行われる飲み会である程度は慣れたとはいえ、まだ苦手意識が取れないまま、ちびちびとグラスの中の烏龍茶を口に含む。

こうやって気を紛らわせていないと、甘い香水の匂いや料理の油の匂いに酔ってしまいそうだった。
グラスの中の氷を見つめていると、ふわりと陽だまりで香るリネンのような匂いが鼻先を掠める。

「水瀬」

その瞬間、ふいに落ちてきた低い声。

「大丈夫か?」

さっきまで同僚たちに囲まれていたはずなのに隣に座った白石部長は私の顔を覗き込んで形のいい眉を顰めた。

「だ、大丈夫です!」

雰囲気を壊したくなくて、無理に笑みを繕う私を白石部長の瞳が刺すように見つめる。

「……さっきよりは全然良くなったので」

結局、耐えきれずそう小さく言えば、白石部長は瞳を弛めて笑う。

さっきはもう限界とも思ってたけど、白石部長が隣に座ってから他の匂いが気にならなくなってきた。

優しい匂いに包まれているような安心する香り。
もっと近くで……この人に抱きしめられたらどれだけ幸せなんだろう。

「ーー水瀬?」

その声にハッと我に返ると、至近距離に白石部長の整った顔があった。

驚きのあまり、声にならない悲鳴をあげて勢いよく離れると、後頭部に衝撃が走った。

「っ!」
「大丈夫か?あんなに勢いよく壁にぶつけたら痛いだろ」

驚いて目を丸くさせていた白石部長だったが、すぐさま怪我の具合を確かめるように私の後頭部へ腕を回す。

「し、白石部長……」
「……この様子ならすぐに治るだろう」

安堵したように息をつく白石部長とは反対に、私の顔は体中の血液が沸騰したんじゃないかってくらい熱を持っていた。

いつもより近い距離。心臓が飛び出しそう。

半ば抱きしめられるような体勢に、白石部長の匂いがより一層香る。
そっと視線をあげた先で、偶然にもぱちりと目が合った白石部長が固まる。
私が逸らすよりも先に、目を逸らした白石部長はどこか照れくさそうにも見えた。

やっぱり。
ーー私、この人のことが好き。

そう思った瞬間、また悲鳴をあげてしまいそうだった。
慌てて口元に手を当てて体を縮こまらせる。

何でこんなタイミングで気付くんだろう。
たしかに白石部長の匂いは、どうやったって再現できないほどいい匂いで好きだけど……。

白石部長は気付いた様子もなく、真剣に後頭部を見ている。
時々、指先が私の頭に触れるたびに心地よい香りが肺を満たしていく。
< 1 / 10 >

この作品をシェア

pagetop