好きなのは匂いだけだったはずなのに。〜完璧上司の独占欲が止まりません〜
気付かれていないうちに顔の熱を取ろうと、脳内で北極の動物たちを思い浮かべる。

冷たいものを浮かべれば顔の熱も引くかなって思ったのに、白石部長の顔が脳裏をチラつく。
それどころか動物たちの顔が白石部長になりつつある。

ーーこのままじゃ、だめだ。

「……し、白石部長」
「ん?」
「少し外で頭を冷やしてきます!」
「ーーは?ちょっと待て、」

制止する声にも気付かないまま、腕の中を抜け出して店の外へと出る。

同僚たちはみんなすでに酔いが回っていて、私たちのことを気に止めていないのがせめてもの救いだった。

みんなの前であんな羞恥晒してたなんて考えただけでも恥ずかしくて死んでしまいそう。

顔の熱を冷ましに来たはずなのに余計に熱くなった頬を抑えて、ぶんぶんと首を振る。

違うことを考えよう。
ええっと、白石部長は……だめだめ。違うこと違うこと。

「ーーお姉さん、こんなところで何やってんの?」

強烈なアルコールと噎せ返るほどの煙草の匂い。
甘ったるい香水も混ざって、ぐっと喉が詰まる。

「お姉さん、聞いてる?」

肩に腕を回されて、知らない男の人の顔が迫る。
肌が粟立って恐怖に瞳を閉じた瞬間。

「ーー彼女から離れてもらえるか」

ぐいっと肩を引かれる感覚と一緒にふわりと広がる陽だまりを浴びた清潔な洗いたてのシャツの匂いに、張り詰めていた神経がほどけるのがわかった。

「あ、いや、そういうことなら、」

酔いの冷めた顔で嵐のように去っていった男の人を見送りながら、ちらりと私の肩を抱くその人を見上げるとぱちりと視線が重なる。

「ありがーー」
「何もされてないか?」
「は、はい」

お礼を言うよりも先に、どこか慌てたような様子の白石部長に肩を掴まれる。
がしり、と大きな手のひらに包まれた肩がほんの少しの痛みを覚えた。

「一人で出るな。心配するだろ」
「す、すみません」

低い声は珍しく苛立っていて、思わず肩が小さくなる。

「……本当に何もされてないんだな?」
「はい。白石部長が来てくださったので」

向かい合う白石部長は私の返事に安堵したように息を吐いて慌てて肩を掴む手を離した。

「悪い。痛くなかったか?」

申し訳なさそうに眉を下げる。
私を気遣うその表情にきゅっと胸が締め付けられた。

「はい、大丈夫です」
「……何ともないなら良かった」

私の返事に安堵したように表情を緩ませた白石部長を見て、胸の奥がとくとくと脈打った。
ぎゅっと高鳴る胸を抑えるように胸元の服を握りしめていると、ふわりと柔らかな日差しの混ざったリネンの匂いに包まれる。

「え……?」

私の肩にかけられた白石部長のジャケットから鮮明に彼の気配がする。
まるで白石部長に抱きしめられているみたいだった。
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