春は眩しくて、届かない
ベンチを離れた瞬間、さっきまでそこにあった夕暮れの空気が少し遠くなる。
落ち葉を踏む音が、やけに静かに響いた。
「今日さ、シュークリーム美味しかったよね」
「また食べてたの?」
「だってあれ選んでくれたし」
陽奈は笑いながら言う。
その横顔を見て、わたしは小さく息を吸った。
——ちゃんと笑えてる。
そう思ったはずなのに、胸の奥だけが少しだけ遅れて痛む。
でもそれは、きっと気のせいだと思った。
「ひなってさ」
「んー?」
「ほんと、まっすぐだね」
「今さら?」
ふたりで笑う。
その笑い声はいつもと同じで、帰り道もいつもと同じで。
なのに、わたしはほんの少しだけ空を見上げた。
秋の空は、思ったより早く色を変えていく。