春は眩しくて、届かない



「……水瀬ってさ」



「え?」



「ほんと変なとこで踏み込んでくるよな」



りのんは目を瞬く。



「ごめんね、だめだった?」



「いや」



湊は視線を落としたまま、
小さく息を吐く。



「……母親」



ぽつりと落ちる声。



「ちょっと、うまくいってねぇだけ」



わたしは黙って聞く。


“だけ”で済む顔じゃないと思ったけど、
言わなかった。



「家、出てんのも」




「そのせい」



夕方の光が、
柏木くんの横顔を長く照らしている。


わたしはゆっくり隣の段に座った。


近すぎない距離。



「そっか」



それだけ返す。


慰めるでもなく、
無理に励ますでもなく。


ただ、
聞いている。


その静けさが、
湊には少しだけ救いだった。


< 165 / 264 >

この作品をシェア

pagetop