春は眩しくて、届かない



「この前さ」



「ん?」



「……ありがとな」



水瀬が目をぱちっと瞬く。



「え?」



「母親と、
ちゃんと話せた」



短く言うつもりだったのに、
声が少しだけ低くなる。



「水瀬が言ってたこと、
結構残ってて」



教室のざわめきが遠く聞こえる。


湊は視線を逸らしながら続ける。



「まだ全部うまくはいってねぇけど」



「でも、
前よりはちゃんと向き合えそう」



その言葉に、
水瀬はふわっと笑った。



「……そっか」



その笑顔を見ると、
胸の奥が少しだけ軽くなる。


「よかった」



たったそれだけなのに、
不思議なくらい救われる声だった。


ふたりの間に静かに落ちていた。


< 175 / 264 >

この作品をシェア

pagetop