春は眩しくて、届かない


その時。



「……水瀬」


聞き慣れた低い声。


振り向くと、
廊下の向こうに柏木くんが立っていた。



「どうしたの?柏木くん」



制服の袖を軽く掴みながら、
柏木くんは少しだけ視線を逸らす。


なんだろう。


その仕草だけで、
りのんの心臓が小さく跳ねた。



「今日、放課後、時間ある?」



一瞬、
周りの音が遠くなる。


目をぱちぱちさせた。



「え」



「……少しだけでいい」




柏木くん頬を染める。


いつもより少し真面目な声。


胸が、
どくん、と大きく鳴った。



「だ、大丈夫だけど……」



そう返すと、
柏木くんは小さく息を吐いた。


安心したみたいに。



「ありがと」



その笑い方が、
なんだかずるい。


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