春は眩しくて、届かない
その瞬間。
わたしの記憶が、 ふっと蘇る。
一年の春。 チューリップを見にいった時。
公園のベンチで、 制服のまま眠ってる男の子を見つけた。
少し顔色が悪くて、 寒そうで。
知らない人だったのに、 放っておけなかった。
コンビニで温かいココアを買って、 そっとベンチに置いた。
『……大丈夫ですか?』
そう声をかけたら、 その人は少しだけ目を開けて。
驚いたみたいに、 こちらを見ていた。
「……え」
思わず口元を押さえる。
「うそ」
柏木くんが小さく笑う。
「ほんと」
「え、待って、 あれ柏木くんだったの!?」
「だから言ってんじゃん」
柏木くんは少し視線を落とした。
「あの時、 正直かなり終わってた」
静かな声。
「でも、 知らない女子高生がさ」
少し笑う。
「ココア置いてってくれて」
春の夜の空気が、 ふたりの間を静かに流れる。