春は眩しくて、届かない
「……柏木くん?」
「いや」
まだ顔が熱いまま、 缶のココアをぎゅっと握っていた。
「それ、 思ったよりやばい」
なんて言われたせいで、 心臓が全然落ち着かない。
「なにそれ……」
恥ずかしくて俯くと、 隣で湊が少し笑う。
春の夜風が、 ふたりの間を静かに通り抜けた。
それから。
「……これからさ」
「ん?」
「それで呼んで」
湊は少し照れたみたいに視線を逸らしながら、 小さく言った。
「“柏木くん”じゃなくて」
その声が、 思ったよりやわらかい。
胸がまた跳ねる。
「えぇ……」
「嫌?」
「嫌じゃないけど……!」
急に難易度が高い。
今までずっと“柏木くん”だったのに。
でも、 湊は少しだけ楽しそうに笑う。
「慣れればいける」
「み、湊くんは簡単に言う……」
その呼び方に、 湊の目が少し細くなる。
嬉しそうで、 また恥ずかしくなる。