離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
プロローグ
「――離婚しよう」
――樹さんの、こんなにも抑揚のない声を聞いたことが、これまでにあっただろうか。
結婚して一年。
私たちふたりの家族としての人生は、まだまだこれからだと思っていた。
二年の交際期間を経て、やっと夢見ていたお嫁さんになれたのは約一年前。来週には、一周年記念でレストランの予約もしているし、これからも一緒に時を刻めたらと、プレゼントとして、密かにお揃いの腕時計を準備していた。
いつでも優しく、たくさんの愛情を注いでくれた夫、――樹さんの表情は見たことないほど無機質で、なんの温かみもない。
仕事から帰れば毎日抱きしめてくれ、優しく名前を呼ばれるのが好きだった。
「どうして……?」
暫くしてやっと声をだすと、その理由は淡々となんの感情もなく告げられた。
「興味が無くなった。ただそれだけだ」
視線が合わない。今、樹さんから感じられるのは拒絶だ。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
何がいけなかったんだろう。
泣いて嫌だと訴えればいいのに、これ以上彼に嫌われるのが怖くて、ただ息を震わせた。
(話すべきかな……もう、これを言っちゃ駄目なのかも)
何が正解なのかわからない。
――今日私は、樹さんに重大で幸せな報告があった。
抱きあって喜びを分かち合う。それから涙を浮かべ嬉しがる姿を想像し彼の帰りを待っていた。
樹さんが仕事から帰宅したら報告しようと思っていたエコー写真――ふたりの子どもが存在する証明を、後ろ手にくしゃりと握りしめて隠した。